故意四球

敬遠。

守備側が戦略的にフォアボールを与えることである。

1月11日にプロ・アマ合同の日本野球規則委員会で、敬遠(故意四球)の際に「申告すれば投球しなくてもいい」という規定が採用された。

このルールは去年大リーグで採用され、イチローが酷評した規則である。

「面白くないね。ダメだね、あれ。あれは戻さないとダメでしょう。戻せよ、という感覚。そう思いました。空気感があるでしょ、4球の間に。面白くないですよ」

リンクした記事のイチローのコメントが全てを物語っている。

そう、面白くないのだ。

彼は空気感という言葉で表しているが、その空気感には野球が持つドラマがある。

記憶に残るのは新庄が槙原の敬遠球をサヨナラ安打したシーンだろう。先日放送された『1万人が選ぶプロ野球選手』(テレビ朝日)でも、この場面は流され、新庄という選手の特殊性を際立たせていた。

昨年のヤクルト-阪神戦でも敬遠球を暴投したために決勝点が入った場面があった。

この時すでに、申告制が導入されたらいやだ、と私は書いていた。こうも早く野球規則に盛り込まれることになろうとは。

この二つの例は大きく動いたドラマであって、常にこういうことが起きるわけではない。ほとんどは何事もなく4球投じられて次の打者との対戦になる。だが、この4球の間にも投手は投げるし、守備陣は守りの姿勢をとるし、打者も構える。そこには各選手の思考があって、両軍ベンチの思惑が錯綜するのだ。これが空気感だと思う。ここに大なり小なりのドラマが生まれるのだ。そこを大切にしてほしい。

そもそも、もともと野球規則にある故意四球になぜ新たなルールを設けなくてはならないのか。「時間短縮」と「国際化の流れに沿う」というのが主な理由らしい。

どの試合にも必ず故意四球が発生し、かつその時間がかかりすぎているのであれば、「時間短縮」の理由も尤もだと思うが、そんなことはない。毎試合敬遠があるわけではないし、4球投げるのにかかる時間もたかがしれている。野球の長時間化の原因はここにあるわけではない。

「国際化」とは何だろう。WBCか? オリンピックか? はたまたメジャーリーグのことか? WBCはアメリカ中心の大会だし、オリンピックは東京五輪限定の復活だ。どこに目線を向けて国際化と言っているのだろう。故意四球の短縮を導入しないことで国際化から乗り遅れてしまうことなどあるのだろうか。

メジャーリーグの歴史にはかなわないが、日本のプロ野球も80年を超える歴史を持つまでになった。WBCでは世界一になっているし、国内の野球人気も衰えつつあるとはいえまだナンバーワンである。世界における野球主要国の一つである。日本の野球界はもっとその文化に誇りを持つべきで、メジャーリーグで物議をかもしている故意四球については慎重に吟味すべきだろう。それをいとも簡単に野球規則に付け足してしまうとは愚の骨頂だ。

アマはともかくプロ野球はファンあっての世界である。異論反論の多いこの問題にはファンの意見を聞く機会があっても良いのではないか。

日本プロ野球機構のホームページにはこのことに関してのニュースが載っていない。まだ正式決定されていない事柄であるから致し方ないのかもしれないが、反響の大きさを考えればファンにその過程を伝える責任はあると思う。

NHKをはじめとする各メディアは、今季から導入されるような記事を書いていたが、実行委員会や監督会議での検討を経てそれは決定される。実行委員会、監督会議で賢明な判断がなされることを切に願う。

 

星野さんはどう思うだろう。