コンプリシティ/優しい共犯(近浦啓監督)

私が2017年の7月~9月下旬まで参加していた作品が、2018年11月17日に第19回東京フィルメックスで本邦初公開された。

それから一年以上を経た、2020年1月17日、ようやく新宿武蔵野館にて上映されることとなった。撮影から実に2年半。監督でありプロデューサーでもある近浦さんは、ここに至るまでとても苦労されたようである。名作を数多く上映してきた新宿武蔵野館での公開に心から拍手を送りたい。

最近話題に上ることが多い「技能実習制度」から失踪した中国人男性のストーリーである(フィクション)。
この法律の危うさを問うて社会問題を提起しようというわけではなく、生まれ故郷を離れ「何者」でもなくなってしまった外国人のその後に想いを馳せてこの映画を製作したと近浦監督は語っている。


その近浦監督は映画監督を志して、自ら会社(ウェブ広告)を立ち上げ、利益を出し、そのお金で作りたい映画を作るという、日本ではあまり見かけないスタイルで突き進んできた。
まずは短編を撮り、そこで映画作りのイロハを身をもって感じ取り、満を持しての長編映画への挑戦となったのが今作である。
なので、これは自主映画なのである。
自分のお金で撮りたいモノを好きな俳優とスタッフに参加してもらう。そこに予算をしっかりと注ぎ込める。予算が潤沢な自主映画。映画はお金が無いと作れない。まず、そこを固めたのはとても素晴らしい。
その映画作りの情熱と卓越した経営能力に賛辞を送らずにはいられない。

この映画の魅力は主役であるルゥ・ユウライの陰を背負った雰囲気と藤竜也の物静かな優しさが物語が進むにつれて徐々に融合していくところである。
お互いにセリフは少ないのだが、目、所作、雰囲気での芝居が心に響く。

東京、大石田町、中国でのロケが敢行されたが、私が帯同したのは大石田町のみ。
山形県のやや北の真ん中に位置する大石田町
降って湧いたような映画作りに、町の人たちはとても好意的に受け止めてくれた。
多くの人にボランティアエキストラとして出演していただいたし、お祭りの真っ最中での撮影も受け入れてくれた。町役場の方たち、ロケ現場周辺の住民の方たちの温かさは今もって忘れることのできない思い出となっている。
その温かさはしっかりと画の中に反映されている。特に町の名物である花火のシーンはその画の美しさに息を呑むばかりである。

東の狼』(カルロス・M・キンテラ監督)での撮影時もそうであったように、今回の藤竜也さんも最高だった。
現場での立ち振る舞い、ロケ先の人へのファンサービス、役に対する執念。いずれをとっても私が見てきた俳優部の中でNo.1である。
蕎麦屋の主人になるために、クランクインの2週間以上前からロケ現場で蕎麦打ちの練習を1日も欠かすことなく行っていた。

俳優部ならば、そのくらいやってほしいとは思うのだが、実際にここまでやる人は、あまりいない。しかも、藤さんは76歳(当時)である。
撮影中のある日のこと、自ら打った蕎麦を振舞いたいということで、ロケ現場で朝4時から蕎麦の仕込みをしていた。すごい人である。もちろん美味しかった。
練習を始めたころ、蕎麦指導の人たちが「そう簡単に打てるようになるものじゃないよ」と言っていたが、最後にはお世辞抜きに「ここまで上手くなるとは思ってもみなかった」と感服していた。
「この映画で、自分は蕎麦屋の主人に“なる”こと。なってしまえば、蕎麦屋の主人となった自分が動いてくれる」
フィルメックスでの舞台あいさつでサラッと言っていたが、俳優としての境地ではなかろうか。
東の狼』、そして今作でその役作りの一端を垣間見ることが出来たのは一生の財産である。

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(↓以下、フィルメックス上映後の感想↓)
映画は完成したが、まだ配給が決まっていないらしい。ゆえに作品の8割を撮影した大石田町での上映がいまだ出来ていない。撮影中、ロケ地で交渉ごとを担当してきた私としてはもどかしい。
あらゆる作品がごまんと上映されているのに、この映画が日の目を見ないという事になれば日本の配給会社の知性を疑う。
一刻も早く、決まってほしいと願うばかりである。