現場の片隅から―

ある俳優事務所の会長が自分のところの女優を使って映画を作りたいという。
しかし、その女優一人の力では集客が見込めないので、某有名グループの青年を相手役に起用する。
しかし、そのグループは多忙なのでスケジュールの制約が尋常ではなくなる。
ここで、製作の大元であるテレビ局が製作を見直すのが普通だが、その会長の力を恐れて見直されることは全くない。
スケジュールが制約されるという事は、撮影現場に負担がかかるという事である。

本来なら2日間で撮りたいシーンを1日で撮らなければならない。
本来なら実際の夜で撮りたいのに、疑似ナイターで撮らなければならない。
良い物件だが土日のみしか撮影が許されないので、諦めなければならない。
何よりもスタッフの休養日が極端に減る。

無理をするという事は、スタッフに必要以上の疲労がたまり、作品の精度を落とすことにつながる。
我々スタッフはこの作品のためにスケジュールを空けているのに、なぜ俳優のスケジュールで作品の質を落とす方向へ流れていかなければならないのだろう。

そして、決まり文句のように言われる「お金がない」。
お金がないなら映画なんて作らなければいい。
映画を作るという事はお金がかかるという事を知っているはずなのに、製作サイドはなぜそこを改めようとしないのか。

こういった事実が出演者に伝えられることはない。薄々感じている俳優はいるだろうが。

クランクイン前からこの状況はわかっていた。「負け戦」になると。
そして、現に、いま、その敗残の中に身を置いている。
天一号作戦に従事した兵隊の心持ちである。

日本における映画作りとは、誠にバカバカしいものである。